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骨格筋トレーニングにおける分子生物学的考察
By山本 義徳 Yoshinori Yamamoto
一般にトレーニングにおける筋発達効果は・・・
“トレーニングによる刺激→超回復→超回復のタイミングを捉えて次のトレーニング→さらなる超回復”
この繰り返しで起こるとされる。さて、この稿においては、刺激から超回復のおこるメカニズムに対して、分子生物学的なミクロの目によって考察していくこととしたい。

タンパク質の第一次構造〜第四次構造ができるまでの流れ

 刺激とは何か。この場合はトレーニングによっておこりうる

1.
機械的物理的ストレス
2.
細胞内カルシウム濃度の変化
3.
虚血→再潅流と、それにともなう筋肉内酸素濃度の変化
4.
活性酸素の発生


 このようなものを指す。これらによってDNAに「筋肉を現在の能力以上のものにせよ」というメッセージが伝えられるわけである。

 さて、筋肉すなわちタンパク質を合成する工場はリボゾームであり、また筋肉の材料となるアミノ酸は核外にある。よってDNAの情報を書き写して(転写=Transcription)核外に持出す必要が生じる。この時に働くのがメッセンジャーRNA(mRNA)である。

 なお、DNAは「開裂」してmRNA にメッセージを写しとらせるのだが、このときに働く酵素の一つに「ジンクフィンガー」と呼ばれるものがある。その名の通り、亜鉛から作られる酵素であり、亜鉛が筋発達だけでなく、さまざまなタンパク質を生成するのに重要であるということが理解されよう。

発達せよ、というメッセージを受け取ったDNAの情報はmRNAに転写されて核外に運び出される。このとき、必要な遺伝子領域(エキソン)だけが取り出され、余計な領域(イントロン)は除去される。これをRNAスプライシングと呼ぶ。さらに5’末端への7-メチルグアノシンキャップ構造の負荷、3’末端へのポリ配列の負荷、メチル化などの修飾が行われ(これをRNAプロセシングと呼ぶ)、成熟したRNAとなる。
そしてmRNAはタンパク合成工場であるリボゾームの粗面小胞体に辿り着き、そこでトランスファーRNA(tRNA)によってアミノ酸が配列され、ペプチド結合していく。mRNAにおける塩基配列がタンパク質のアミノ酸配列に変換されるのだが、これを「翻訳=translation」と呼ぶ。さてアミノ酸を示す3つ組の塩基を“コドンcodon”と呼ぶが、それが一つでもずれると全く違うタンパク質ができあがることになってしまう。よって翻訳開始のコドンが非常に重要となるわけである。ほとんどの遺伝子においてはメチオニンのコドン
AUGが翻訳開始コドンとして使われている。
つまり、ここでは正常なタンパク質生成のためにメチオニンが必要だということが理解されるはずである。

このようにしてつくられる最初のアミノ酸配列を、「タンパク質の第一次構造」と呼ぶ。アミノ酸が一直線に鎖のように並んでいる状態を想像してもらえば分かりやすいだろう。そして鎖の途中、ところどころでアミノ酸同士に引力が働き、鎖はからみあった糸のようになっていき、らせん状のαへリックス、板状のβシートと呼ばれる構造を作る。これをタンパク質の第二次構造と呼ぶ。
 そして第二次構造タンパク質が、さらに引力によってからみあい、それが球状になったとき、これはタンパク質の第三次構造となる。この第三次構造のタンパク質がいくつかくっついたとき、最終的にタンパク質の第四次構造というものができあがるのである。

 やや余談となるが、この第3次構造の形成を助ける介添え的なタンパク質が存在し、これを分子シャペロンと呼ぶ。ストレスタンパク質である熱ショックタンパク質(HSP)やグルコース調節タンパク質(GRP)は、この分子シャペロンの一種である。このGRPはグルコースの不足や酸素不足などによって発生するため、加圧トレーニングの効果はGRPに由来するものもあるかもしれない。

正常な第四次構造タンパク質がつくられるために

 さて、この第三次構造タンパク質がいくつか結合して第四次構造となるとき、体液が酸性に傾いていたり、重金属が存在したりすると、第四次構造が上手く作られなくなってしまうことが分かっている。トレーニング後は乳酸発生によるペーハー低下が起こっているから、これを速やかに除去させねばならない。ビタミンB群やクエン酸、重曹の摂取が必要となろう。
 また重金属を排出するためにはシステインが効果的である。システインに含まれるSH基によるキレート作用により、重金属を排出してくれるわけだ。特に魚を多く食べる日本人には体内の水銀蓄積量が多いとも言われるから、余計にシステインの必要量は増加するだろう。近海魚よりは、回遊魚を選んで食べるようにすることである。

 少し話がずれるが、これまでの内容で筋たんぱく合成のためにはメチオニンやシステインが重要であるということが分かった。しかし、体内のメチオニンやシステインのレベルが上がりすぎると「ホモシステイン」が増加してしまう。ここでは詳細は避けるが、ホモシステインは動脈硬化などを誘発することがわかっている。よって、ここでさらにビタミンB群の摂取を強調したい。B6やB12、葉酸により、ホモシステインは尿中に排泄されるか、メチオニンへと逆戻りするのである。
 
筋発達に必要な刺激とは?

 さて、ここで話を一番最初に戻そう。筋タンパクを合成するためには、「発達せよ」というメッセージがDNAに伝わらなければならない。さて、どれくらいの刺激を与えればメッセージは伝わるのか?
 これは簡単である。現在の筋肉の能力が100だとしたら、101の刺激だけを与えれば良い。それで十分なのである。では、200の刺激を与えたらどうなるか。もっと強いメッセージがDNAに伝わる?そんなことにはならないのである。

 電灯をつけるときのことを考えてみよう。スイッチを一回押せば、それで電気は点く。これが“メッセージが伝わった”ということである。200の刺激を与えるというのは、スイッチを強く押す、あるいはスイッチを押しつづける、ということである。どちらも全く意味がないことは明らかであろう。
 むしろ、余計な刺激を与える事は回復を遅らせ、オーバーワークに繋がりかねない。どれだけトレーニング量を減らすことができるか、こちらのほうが実は重要なのである。ほんの少しだけ筋肉痛がくれば、それで101以上の刺激は伝わったと考えてよい。何日も強い筋肉痛がきたら、これはやり過ぎだと知るべしである。

転写因子について

 ところでDNAが転写されるときには「転写因子」がRNA合成酵素(RNAポリメラーゼU)と結合し、転写開始反応を引き起こす。この転写因子には、筋肉に特異的に発現するものがあり、これをMyoDファミリーと呼ぶ。MyoDファミリーの構成員はMyoD、myogenin, Myf-5, MRF4 の4種類のタンパク質である。このMyoDファミリーはアラニン-スレオニンという配列を持つ事が特徴であり、これらのアミノ酸の重要性も再認識されよう。
 また、MyoDは速筋繊維に、myogeninは遅筋繊維に特異的に発現するが、逆に速筋繊維が増加するときにはMyoDが増加し、遅筋繊維が増加するときにはmyogeninが増加することが示唆されている。
 なお、甲状腺ホルモンも転写調節因子の一つであるが、DNA配列における甲状腺ホルモン応答領域がMyoD遺伝子の上流に存在する。これは甲状腺ホルモンの投与により、速筋繊維の割合が増加するということを示唆しているのである。甲状腺ホルモンの投与はドーピングにあたり、また下手に使うとかえって筋肉量を減らしてしまう事もあって、その使用は薦められない。ただ、減量中に甲状腺ホルモンの活性が低下することは、速筋繊維の減少を招いている可能性も考えられる。よって減量中には甲状腺ホルモン活性の維持を重要視するべきであろう。余談になるが、クレンブテロールも速筋繊維の割合を増やす事が知られている。

 MyoDファミリーは筋前駆細胞を筋芽細胞へと分化させる役割を果たすが、刺激に対する初期応答遺伝子としては、c-fos, c-jun, c-myc などの原ガン遺伝子が転写調節因子として働く。これらはストレッチ刺激により増加する事が分かっているため、ストレッチエクササイズを取り入れることは重要となろう。

細胞外マトリックスについて

さて、筋肥大においては収縮タンパク質だけではなく、細胞外マトリックス(ECM)の増大も考慮しなくてはならない。ECMの主骨格は当然ながらコラーゲンであるが、コラーゲンの産生を刺激する為にはネガティブエクササイズが重要とされる。またネガティブにより前述のc-fos, c-jun, c-mycなどの転写調節因子発現も増大することがわかっているため、さらにその重要性は増すだろう。また、コラーゲンの三つ編み構造をつくるためにはビタミンCが必要である。さらに繊維性コラーゲンの「Yの位置」にあるアルギニンは、螺旋構造の安定性を増す。これらのことも頭に入れておきたい。
また、ギプス固定(immobilization)により筋及び結合組織の萎縮が起こるが、これは筋を短縮した状態または生体長で固定した場合に顕著であり、ストレッチした状態では抑制されるとのことである。すなわち、コラーゲンの生成はストレッチ刺激によりコントロールされるということが示唆される。ここでもまたストレッチの重要性が明らかとなった。

なお、Stoneの報告によれば、短時間の負荷運動では強度が強い方が、持久的な運動では時間が長い方が、結合組織の強度を高めるために効果的だということである。これはビルダーが怪我をしてリハビリを行うときには、ある程度の高い強度でトレーニングすべきだということを示すことになるだろう。

面白い事に、筋芽細胞の誘導・分化過程にECM分子が直接的に影響する、という報告がある。骨格としてのECMがダイナミックに刺激され、それが筋細胞や筋芽細胞を刺激しているのであろうか。
ラットにダウンヒルランニングを行わせた実験によれば、筋内コラーゲンのmRNAレベルは運動後12日から4日後にかけて上昇し、コラーゲン生成の活性化が起こった。しかし14日目のコラーゲン組織内濃度は変化しなかったということである。よってトレーニング頻度としては、少なくとも同一部位を4空け、しかし14日よりはずっと短くするようにして刺激するべし、という仮説がここから導かれる。
そしてこの実験においては、ダメージの観察されなかった筋においても、同様の傾向が見られたということである。これは必ずしも筋発達において、筋破壊が必要なのではない、ということを示すのかもしれない。ハッキリ言えることは、たとえ筋肉痛が来なかったとしても、同じ部位をトレーニングするときには4日は開けましょう、ということである。

ネガティブトレーニングについての付記

 さいごに、ネガティブトレーニングについてもう一言したい。ネガティブ刺激によって筋は破壊されるが、その初期の変化としてジストロフィンが焼失する。メカニカルストレスによって細胞膜が損傷し、そこから高濃度のカルシウムイオンが流入してホスホリパーゼA2の活性を高め、細胞膜の損傷を進行させるとともにジストロフィンも壊されると考えられている。また、タンパク質を分解する酵素の一つ、カルパイン(カルシウム依存性中性プロテアーゼ=CANP)が活性化することによりタンパク分解が亢進するが、これは筋小胞体のカルシウム放出&保持&取り込みが上手くいかなくなったとき、すなわちオールアウトしたときに活性化する。筋細胞中のカルシウム濃度の変化そのものが、ここでは重要となってくるため、筋小胞体からのカルシウム放出を刺激するカフェインなどの摂取は重要となろう。
 また、ネガティブにより筋の回復が遅れるのは細胞内にグルコースを取り込むGLUT4が破壊されるからである。これはバナジウムの摂取により抑制されるため、ネガティブトレーニングをするときにはバナジウムの摂取も推奨したい。

以上、簡単ながら分子生物学的に筋発達についてアプローチしてみた。今後、新たなる実験結果などが発表されれば、その都度みなさんに紹介していきたい。


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